Tokyo
005

みんなで囲む鍋料理

着席で決まる鍋奉行

冬の楽しみといえば、家族や友人と囲む鍋料理。日本の鍋は数あれど、毎日鍋を食べるお相撲さんのちゃんこ鍋は日本の鍋の代表格。旧三保ヶ関部屋の流れを流れを汲む「ちゃんこ増位山」の店主・澤田偉貴さんによると「鍋は誰と一緒に食べるかで、マナーが変わってくる料理」だという。友人同士ならば、気楽に自分で好きなものを取り分ける。仕事の接待ならば、下手(しもて)に座った若手が自然と取り分ける役割に。相撲部屋では、若手の力士が取り分けて関取に渡していく。「若手力士にはスープしか残っておらず、それでごはんをかき込んでハングリー精神を養うこともあるそうです」(澤田さん)。あとは、直箸(じかばし)で鍋をつつかないように注意して、おいしく食べるだけ。

着席で決まる鍋奉行
接待や仕事関係では、下座(しもざ)の人が取り分け係に。

鍋料理の発祥は土器の誕生から

鍋料理は、土器の誕生とともに始まった。座敷に七輪や鍋を持ち出して食べるようになったのは江戸の後期から。ちゃんこ鍋は、明治の名横綱・常陸山が考案したという説と、長崎巡業で中華鍋を使った料理を見た力士が考案したという説がある。験担ぎをする相撲の世界では「四つん這いは負け」というイメージから、具材は牛肉や豚肉を避けて、鶏肉、魚、野菜を使う。だしは昆布、カツオ、鶏ガラなど部屋ごとに定番がある。「力士同士の連帯感を高めるために、ひとつの鍋を囲むようになったとも言われています。だから、楽しく食べることもマナーのひとつかもしれませんね」(澤田さん)

鍋料理の発祥は土器の誕生から
旧三保ヶ関部屋の土俵を眺めながら、ちゃんこを食べる。

雑炊の前には具を残さずに

鍋の最後の楽しみといえば、具材のだしで味わう雑炊やうどん。その前に、鍋の中の具材を全てすくい上げて、きれいなスープにしておくことも、おいしく食べるコツ。美食家で知れれる北大路魯山人は「鍋料理の話」というエッセイで、鍋料理はだしがでるもの、だしを吸収するものという順番で具材を入れ、その都度、鍋の中をきれいに片付けるべしと説いている。具をきれいに取っただしに、ごはんを加えて一呼吸。ほどよく沸騰し、お米がだしを吸ってから溶き卵を加えていただく。気がつけば、みんな笑顔。グッドマナーで楽しい冬のひとときを。

雑炊の前には具を残さずに
締めの雑炊は、きれいなスープでおいしくいただく。

データ

いつ始まったの? 縄文土器の発明と同時。
どこで体験できるの? 全国のご家庭。ちゃんこ鍋は東京の両国近辺。
おすすめの時期や時間帯は? 寒さを感じる秋から冬にかけて。
数字的データ
(2016年10月末現在)
ひと月に食べる鍋の回数:7.92回/月(2016年)
鍋料理にかける費用:736円(家庭内)、2,501円(外食)
(『紀文・鍋白書2016』より)
注意事項 親しき中にも礼儀あり。衛生面からも直箸(じかばし)ではなく取り箸を使おう。

参考:

紀文・鍋白書2016

https://www.kibun.co.jp/knowledge/oden/data/ranking/nabe_2016.pdf

『魯山人の食卓』北大路魯山人(角川春樹事務所)

 

『誰かに話したくなる! 「和食と日本人」おもしろ雑学』武田櫂太郎(大和書房)

撮影協力:

ちゃんこ増位山(東京都墨田区千歳3-2-12 TEL:03-3631-0109)