Tokyo
011

いただきます ごちそうさま

英語に翻訳できない「いただきます」

だれかに会ったら「こんにちは」、食事のときには「いただきます」。当たり前に使う日常的な挨拶だ。ただし、人と人とをつなぐ「こんにちは」に対し、「いただきます」「ごちそうさま」は食事への感謝の言葉。英語には該当する言葉がなく、イタリア語の「Buon appetito」フランス語の「Bon apetit」(召し上がれ)、ドイツ語の「Mahlzeit」(食事の時間)が近いと言われている。
そもそも日本語の「いただく」という言葉自体、万葉集では「物を頭の上に載せる」という意味で使われていた。そして儀式で神様と同じものを食べるときに、食べ物を頭上に掲げてからいただくことから「(食べ物を)いただく」と使用するようになったという。

英語に翻訳できない「いただきます」
食材の命、生産者や調理をした人への感謝が自然に生まれる「いただきます」。

諸説飛び交う「いただきます」の起源

江戸時代には「飲む・食べる」の謙譲語として「いただく」という言葉が広まった。では「いただきます」「ごちそうさま」の挨拶が始まったのは、いつなのだろうか。それは「いただく」という言葉が広まった江戸時代という説や、学校教育が浸透した大正〜昭和の初めとする説などがあり、実ははっきりとしていない。今では、その言葉とともに一礼や合掌をすることもあるが、その習慣は地域によって異なる。なかでも「いただきます」の合掌の起源は、浄土真宗や禅宗など仏教の影響や、民間の風習など、さまざまな説が飛び交っている。

諸説飛び交う「いただきます」の起源
「いただきます」の起源は、いまだ謎に包まれている。

食育にも使われる感謝の言葉で

室町時代から続く小笠原流礼法によると「いただきます」「ごちそうさま」は、食材の命や、たくさんの人の手間と労力に対する感謝の気持ちが込められている言葉だという。昔は、お風呂に入ったときにも「ごちそうさま」と言ったのだとか。
文部科学省が配布している小学生用食育教材『たのしい食事つながる食育』(平成28年2月版)には「食事をおいしくする魔法のことば」として「いただきます」「ごちそうさま」を紹介。食材そのものや生産者、販売者、調理者に思いを馳せ、食べ物を大切にする心と感謝する気持ちを育んでいる。
小さな子どもから大人まで、みんなで「いただきます」「ごちそうさま」。日常の中に感謝がある、日本のGOODな風景だ。

食育にも使われる感謝の言葉で
働く人の「ごちそうさま」は気持ちのスイッチになることも。

データ

いつ始まったの? 「いただく」が「飲む・食べる」の謙譲語として用いられるようになったのは江戸時代。それと同時に「いただきます」が広まったという説、大正〜昭和にかけて広まったという説がある。
どこで見ることができるの? 日本中の食卓や飲食店。海外の日本食レストラン。
おすすめの時期や時間帯は? 朝・昼・晩の食事時。
数字的データ 平成25年12月「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録。
注意事項 食事への感謝も長すぎると、料理が冷めてしまいます。

取材協力:小笠原流礼法宗家本部
(http://www.ogasawararyu-reihou.com/)
 
参考:
『美しい日本語の作法』小笠原敬承斎(小学館)
『日本人はいつから「いただきます」するようになったのか』篠賀大祐
『日常語の意味変化辞典』堀井令以知(東京堂出版)