Tokyo
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麺をすする音はマナー違反?

音を立てたらヌードルハラスメント?

訪日観光客が驚く日本の食習慣のひとつは、麺をすする音。そばやラーメンをずるずると音を立てて食べる習慣は日本以外には見られない。グローバル化した現在、それはマナー違反なのではないかとたびたび論争が繰り広げられ、「ヌードルハラスメント」という言葉も生まれた。果たしてこれは、日本の食文化なのか、それとも改善すべきことなのか。歴史を紐解きながら、探ってみよう。

音を立てたらヌードルハラスメント?
たっぷりのスープに、麺と具材が入った五目そば。

諸説入り混じる麺料理の発祥

そばが日本に伝わったのは古く、奈良時代以前と言われている。当時は雑穀の一種として粥やそばがきのようにして食べられており、現在の麺の形(そば切り)は、『定勝寺文書』の1574年の仏殿改修の際に「ソハキリ」が振る舞われたという記述がされたのが最も古い。すすって食べるようになったのは、そば切りの形態になってからだと言われている。うどんの発祥は、奈良時代に遣唐使が中国から伝えたという説、平安時代に空海が伝えたという説、平安時代に奈良で生まれたという説など様々だ。いずれにせよ、うどんもそばも江戸時代前期には全国で一般的に食べられるようになった。中でもそばは、夜になると「夜そば売り」と呼ばれる屋台があちこちに出現したほどの人気メニューに。ラーメンについては、水戸光圀が江戸時代に食べたのが始まりとされていたが、実は室町時代の僧侶が中国の『居家必要事類』を参考にラーメンを振舞っていたという記述が見つかっている。一般に広まるのは明治に入ってから。1870年、横浜の居留地に日本初の中国料理店が登場。1910年には、現在のラーメンの元祖と言われる「来々軒」が浅草にオープンし、その後、スープや麺の形状に至るまで日本独自の進化を遂げている。

諸説入り混じる麺料理の発祥
街の中国料理店やラーメン屋さんにも、開国以来の歴史が息づく。

そばはOK。ラーメンは?

白米と並ぶ人気食となった麺料理。では、マナーはどうなのか。落語の「時そば」では、そばをたぐる様子を音で表現しており、粋な江戸っ子の象徴にもなっている。では、その他の麺は?
日本のラーメンのルーツである、中国料理でのマナーを中国料理研究家・瀧満里子さんに聞くと、そもそも中国の麺は北方の主食であり、家庭で作ることも多い点心のひとつ。高級料理ではなく一般的に食べるものなので、とくに形式的なマナーはない。麺の種類も刀削麺やうどんのような太さなどバリエーションが豊富で、拉麺(ラーメン)は引っ張って細長く伸ばす麺の一種を指す。スープとともにいただくものは「湯麺」と呼ばれ、具材も肉や魚介など様々だ。「中国からの観光客が日本で食べたいものにラーメンの名前が挙げるほど、日本のラーメンは独自のもの。食べ方もコシの強い麺と熱いスープのラーメンを美味しく味わう方法として生まれたのでは」と言う。レストランやホテルでも、麺の食べ方については決まりごとはない。あまりに勢いよくすすってスープを飛ばしたり、同席者が不快にならなければOK。楽しい食卓こそ、最高のGOOD MANNERなのだ。

データ

いつ始まったの? もともと全国で食べられていたが、そばが江戸で人気になったのは、夜鳴きそばなど夜に屋台が増えてから。
どこで見ることができるの? 日本全国の街のそば屋、うどん屋、ラーメン屋、中国料理店と家庭の食卓。
数字データ 平成26年〜28年の年間支出金額または年間購入数量の都市別ランキング:
生うどん・そば(購入、外食ともに):高松市
中華麺:盛岡市
中華そば(外食):山形市
総務省統計局「家計簿からみたファミリーライフ」)
注意事項 マナーがルール化されていないからこそ、気を配りたいもの。服が汚れるほど盛大に麺をすするのは、粋ではないので気をつけよう。

参考:
『江戸っ子はなぜ蕎麦なのか?』岩﨑信也(光文社新書)
『日本人はなにを食べてきたか』原田信男(角川ソフィア文庫)
新横浜ラーメン博物館
 
取材協力:
中国料理研究家・瀧満里子さん
中国料理 甜甜