2021.01.20
実施報告:シブヤ大学『Tokyo Good Manners Project × シブヤ大学 新しい循環をつくる地域共生のカタチ』

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コロナ禍で場所の移動についても日々ナーバスにならざるを得ない今、住まいを取り巻く「地域」を意識する機会もおのずと増えてきています。つながり、助け合いなどといった地域との関わり方について、そのよりよい姿を考えるきっかけとなるような授業が1222日にオンラインで開催されました。Tokyo Good Manners ProjectNPO法人シブヤ大学とのコラボレーション講座「新しい循環をつくる地域共生のカタチ」です。

この日のゲストは『日本のシビックエコノミー私たちが小さな経済を生み出す方法』の著者であり、国内外問わず多数のシビックエコノミー事例に通じている紫牟田(しむた)伸子さん。「シビックエコノミー」というこの目新しい概念について教わりながら、それを実践するとしたなら自分にどんなことができるだろうか、と参加者が各自で具体的に考えてみるワークショップも実施されました。

モノなり土地なり利益なり、それらが個人に対し細分化されたかたちで帰属するのとは違い、シビックエコノミーは社会全体に役立つことを利益とみなす考え方に根差した、市民主体の新しい経済のあり方を指しています。影響力ある資本家などに依らず、いちど分断された神経系をつなぎ直すかのようにして、市民ひとりひとりが自発的にアクションを担うことで成り立つ世界です。個人事業主、株式会社、組合、従業員所属会社、ソーシャルファームなどあらゆる主体の手により行われる、公共性と事業性が両立するかたちで継続するスモールビジネスなどがこれに当たります。

雑誌『THE BIG ISSUE』(ホームレスの人に冊子を販売する仕事を提供し、その自立を促す)。デンマークのバイシケリ(自国の廃棄自転車を修理したのちモザンビークで販売。従業員は3年間現地に住み込み自転車修理の知識を技術移転し、現地の人々の自立支援を促す)。イギリスのインクレディブル・エディブル・ガーデン(都市の路上に点在するわずかな土に野菜やハーブの種をまく一種のゲリラガーデニング。生育した葉や果実は誰もが採取可能。地域への愛着を醸成し、食育にもつながる)。あるいは日本国内のこども食堂。これらの事例に共通するのは、富や権利などを所有者や権利者自身が「皆が使える(関わる)ようにした方が善い(あるいは、面白い)」といった価値観に基づき自ら進んで開放していることで、いわゆる「持たざる」立場にいた人を助けることにもしばしばなっています。また尾道空き家再生プロジェクト(過疎化により朽ちてゆく一方だった明治・大正の木造住宅地を地域のコミュニティ拠点・ゲストハウスに転化)のように、それまで資源としてみなされていなかったモノに新たに価値が付与されるケースもあります。

地域や社会との共生を志す態度に根差したこの「新しい循環」は、一市民として誰もが始めることが可能であることをぜひ意識してほしい。そんな紫牟田さんの考えをお聞きした上で、当日は自分ならではのシビックエコノミーのプロジェクトを考えてみる機会も設けられました。

みんなで支え合う新しい循環の仕組みを、といっても大上段に構える必要はなく、特技をはじめとした広い意味での自分の資源を、どんな他者に向けてどのように届けられるか、がプロジェクトを考える上での基本です。自分のリソース及び地域のリソースを生かしたプロジェクトを発案し、その上で、チームの一員として共にプロジェクトを推進する同士とするべき人は誰か、プロジェクト自体に関わらなくともプロジェクトの影響を被る「ステークホルダー」にあたるのは誰か、といった点を具体的に詰めて考えてみることで、シビックエコノミーが実現されゆくプロセスの初歩的な部分を追体験することが出来ました。

また、参加者から共有された各プロジェクト案をめぐり、紫牟田さんから、ご自身の著書の参考事例も引き合いに出しながら発展的なサジェスチョンがなされたり、また継続可能なプロジェクトとしての資金繰りも踏まえた「事業モデル」として洗練させる難しさのことも教わったりとしました。地域共生社会を展望する有意義な2時間。シビックエコノミーという概念に触れることを通じて、参加者各自、自身が拠って立つところである地域に対しより肯定的・より主体的に向き合えるようになる機会となりました。