2019.05.16
実施報告:市民大学マナークリエーション講座 自由大学: 設と振る舞いと着飾り方で見分けるマナーの心

2019年2月16日土曜日、Tokyo Good Manners Project(TGMP)×自由大学のマナークリエーション講座が、表参道COMMUNE 2ndで実施されました。

この回のテーマは、アーバンジェントルマンが備えるべき教養としてのファッションの重要性です。旧来的な公教育などを通じて、所詮個々人の趣味に過ぎず、取るに足らないものと見なされる向きもあるファッションについて、それがビジネスや政治といった場、あるいはより普遍的な場においても力を発揮しうるものであることが、クリエイティブディレクター竹内大氏によって説かれました。

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「FINEBOYS」、「Esquire」日本版、「OCEANS」といった数ある有名男性誌の副編集長を務めたのち「GQ JAPAN」編集長代理、「WIRED」副編集長、「Forbes JAPAN」クリエイティブディレクターを歴任するなど、ファッションを軸足にビジネスやテクノロジーといった領域にも裾野を広げ活躍する同氏。彼いわく、ファッションは「TPOや同時代性などを踏まえて着こなす営みはそれなりの知性を要するもの。いわば一種のリベラルアーツ」なのです。

例えば公の場で着用するスーツのこと。「ゆったり着ることができればそれでOK、という旧態依然とした国内の政界やビジネスシーンのスーツファッションは、ただただダボっとした制服のようで、冴えないという印象を与えるばかり」という見解です

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続いて「それに比べて体のラインを踏まえ仕立てるなど、着こなしへの配慮や計算がなされた格好が見る者に与える印象は、やはり相応に好ましいものになります。ウィンザー公、J.F.ケネディ氏、元国連事務総長のアナン氏などがその良いお手本。身にまとう衣服が当人自身の好ましいパブリックイメージをつくりあげることに大きく貢献しているのです」

なお、着飾るということ自体が本来的に持つ女性的繊細さを、日本人男性は実は高いレベルで備えていると言う指摘もありました。「日本人男性のレベルの高さは、男性ファッション誌の数が他国に比べ群を抜いて多いこと、それに世界トップクラスのファッションデザイナーがインスピレーションを求めて、わざわざ来日するという事実からも明らか。彼らは東京のストリートを闊歩する日本人男性を観察しては翌シーズンの新作発表に生かすのです」だなんて、驚くと同時に誇らしいことです。

ファッションにはコミュニケーションツールとしての側面もあります。「それが持つ自己表現の手段としての可能性は実は大きいにも関わらず、多くの場合そこがないがしろにされていて勿体ないところ。イブ・サンローランのロングヘア&セルフレームのメガネ、山本耀司の黒づくめのアウトフィット、菊池武夫のメガネとダービーハットのペアリング。こういったシンプルなものが一貫していることが、各人にとって強力なアイコンになっています」。

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「私氏自身、10年来ボウタイ(蝶ネクタイ)を常に着用することで、それが他者からの印象として「ボウタイをつけている人」ということで自身のイメージに個性を与えています。特段道具を持ち歩く必要もなく、ただ身につけているだけで、そのデザインや結び方といった要素がコミュニケーションのきっかけになりうるのだからお得です」と。思わず膝を打ちたくなるような指摘です

コンゴ共和国のファッションピープル『サプール』に至っては、内戦ばかりの祖国に対して、彼ら自身の身一つで注目を集め、平和を訴えることにも成功しているとのこと。ファッションの影響の大きさには計り知れないものがあるのです。

また彼自身のキャリア自体が、ファッションに精通することの強みを示す良い例です。「ファッションに精通していることで、他業界から『ウチの媒体を格好良くしてくれる力量があるのでは』と期待され仕事の依頼も来るよになったり。ファッション、カルチャー、クリエイティブといった元々のフィールドからビジネス、テクノロジー、デジタルといった他の分野へといわば『越境』して仕事ができるようになりました」とのことで、専門性をもつことの有用性も含めとても参考になります。

このような竹内氏からの講演を踏まえて、最後には氏を含め参加者どうしテーブルを囲んで質疑応答やディスカッションも。装うことが持つ意味の大きさについての理解が深まった意義深い機会となりました。

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 第1回のゲストにお越し頂いた竹内大氏におかれましては、4月23日にご逝去されました。
謹んでお悔やみ申し上げます。