Tokyo
027

東京生まれのスリッパ

スリッパの発祥の地は東京・八重洲

自宅に帰ってくると、玄関で靴を脱いでスリッパに履き替える。気持ちがホッとリラックスする一瞬だ。スリッパはその名前から、海外生まれのもののように思えるが実は日本生まれ、発祥の地は東京と言われている。江戸時代の終盤から明治の初め、開国とともに外国人が日本にやってきた。畳敷きの住居を初めて体験し、そのまま座敷に上がろうとする外国人が後を絶たなかったという。欧米では人前で靴を脱ぐ習慣はない。そこで、靴の上から履くオーバーシューズを、東京・八重洲の仕立て職人、徳野利三郎が作った。それがスリッパの原型と言われている。畳敷き中心の住居からフローリングに住居形態が変化しても、靴を脱いで生活する習慣は残り、スリッパは暮らしの必需品となった。

スリッパの発祥の地は東京・八重洲
大川製作所の大川一夫さん。スリッパはミシンでひとつずつ手縫い。

1960年代の団地の出現、フローリング生活の始まり

外国人向けに誕生したスリッパは、明治から戦前にかけて、都会の上流階級に広まった。一般に普及したのは、1960年代の大型団地が急増してから。フローリングの居間が増加し、家の中でスリッパを履く習慣が定着したのだ。さらに応接間を備えた住居も流行し、来客用に揃いのスリッパを置く家庭も増えた。昭和の高度成長期、需要の拡大に伴いスリッパ産業も大きく拡大した。東京の足立区・台東区にもスリッパ工場が多く存在したが、その後、海外での大量生産が始まり、東京の町工場は減少。現在、国内生産は山形県河北町が中心となっている。

1960年代の団地の出現、フローリング生活の始まり
ソールの型抜き作業。

来客用から自分のためのリラックスアイテムへ

東京スリッパ工業協同組合の大川一夫理事長が営む大川製作所は、百貨店を中心に販売する高級スリッパを製造している。かつては高級感のあるゴブラン織りでフェルトソールの来客用が人気だったが、最近では、足幅の広くリラックスできる個人用のルームシューズが流行しているという。そして、家具と同じファブリックを使ったスリッパや、爽やかなメッシュタイプ、チャールストンタイプ、モロッコ生まれのバブーシュなどスタイルも多様化した。さらに足型から作る完全オーダーメイドのスリッパや、「元祖スリッパ」であるオーバーシューズタイプのオーダーが入ることもあるのだとか。開国の動乱期、外国と日本の異なる生活習慣の間を繋いだスリッパ。床を傷めず、生活音の防音対策にもなる。そんなスリッパは、世界に誇るTOKYO GOODだ。

来客用から自分のためのリラックスアイテムへ
左は長く愛されているスリッパ。来客用もこのタイプが多い。中央と右は最近流行のタイプ。
いつ始まったの? 江戸の終わりから明治初年頃と言われている。
どこで見ることができるの? 一般家庭、旅館、病院、学校など。
数字データ 1867年 福沢諭吉著の『西洋衣食住』にて「上沓 スリップルス」が紹介される。
1907年頃 徳野利三郎がスリッパの原型を考案。
注意事項 スリッパには左右があるものとないものの、2つのタイプがあります。もし履いているスリッパに違和感があるなら、それは左右が逆かもしれません。