2021.01.20
実施報告:シブヤ大学『Tokyo Good Manners Project × シブヤ大学   今こそ考えたい家族のカタチ』

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誰しも身近な存在である、家族。コロナ禍でのいわゆる「新しい生活様式」の普及に伴い、家族で過ごす時間が増えた人も多い中、長い時間共に過ごす家庭内で軋轢が生じたり、思うように帰省することもままならなかったりと、家族をめぐって戸惑い思い悩むような機会が、昨今の私たちを取り巻いています。

そんな中で去る12月5日、家族のあり方を問う講座がシブヤ大学とのコラボレーション講座としてオンラインで行われました。ZOOMのミーティングルームに集った15名ほどの参加者は、講師の方のお話を聞きながら、自らの経験も踏まえて話を交わしました。講師は海猫沢めろんさん(文筆業)と笹川かおりさん(編集者・ライター)、分野は違えど個々の活動を通じ家族のあり方を問うてきたお二方です。

参加者が授業への参加動機を語ったり、あるいは小グループに分かれてグループトークをしたりする中で明らかになったのは、性別・年代などの属性を問わず、家族をめぐる不安や悩みを全員が抱えているということ。その悩みは、子育てや介護を通じた親との関係についてであったり、単身者ならではの悩みであったりと、多岐にわたります。

参加者同士のアイスブレイクの後、授業は海猫沢さんと笹川さんによる「家族のカタチ」をお題とするトークパートへ。家庭環境的なそれぞれの出自から、子どもが生まれて以降の暮らし方および家族観の変化など、幅広いトピックにまたがる内容でした。

15歳で実家を離れるまでごく平均的な家庭に育ちながらも、現在は東京と地方の二拠点生活、過去には東京で長らくシェアハウス暮らしを続けてきた海猫沢さん。一時期は、彼とパートナーとお子さんの他に、もう一組のご夫婦とそのお子さんが同居するという「二組の子育て中カップルのいるシェアハウス」に住んでいたことも。ただでさえせわしない子育てがダブルで展開されるという大変な日々だったそうです。

「家族として暮らすことには経済的な意味合いも実は大きく、共同生活がうまく機能している限り複数人が固まって暮らすのはそもそもコスパが良い。けど逆にその具合が良くない場合は、そう簡単に逃げ出したり解散したりできないというジレンマを抱えることになる」と海猫沢さん。「昭和の頃と今ではもろもろの環境が確実に違うのだから、法制度が規定するところの旧来的な家族観に引きずられず、実生活を同じくする集団としてその実態にきちんと目を向けることが必要。ヘルプやサポートが本当に求められているケースが“想定外”のところで発生してしまっている」というのが彼の考えるところです。

ホストクラブに勤める男たちがあるとき偶然に子どもを拾い、独力で育てようと試みるも難儀し、やがてクラウドファンディングまで活用して子育てに四苦八苦する小説『キッズファイヤー・ドットコム』もまた、子どもは産みの親が責任を持って育て上げるべし、という根強い社会常識に疑問を呈する海猫沢さんならではの作品です。

かたや笹川さん。自身が生まれた家族の原体験から、小学校の頃から親から自立することを強く意識していたそうです。そんな境遇もあり、働き始めてからは「ハフポスト 日本版」のニュースエディターとしてジェンダー、働き方、LGBTQといったトピックを巡り多様なライフスタイルを意欲的に発信したことも。

「家族とは」を問い、考えることもまた彼女にとっての一大関心事でした。パートナーとふたり、互いに仕事を持ちながらの子育てに骨折れる思いをしていた日々の中で、あるとき、取材を通じて「Cift(シフト)」というコミュニティに出会い、そこで掲げられる「拡張家族」の理念に共感を覚えた笹川さん。以来そのコミュニティの一員となり、自宅に軸足を置きつつ、自転車で通える距離にあるそのコミュニティへと日常的に出入りする日々を送っています。

「Cift」には100人単位でメンバーがいる中で、「子どもがいない20代メンバーが、私の息子と遊び友達になったり、息子と年の近い子どもたちと洋服をシェアしたり。従来的な意味での友人とも家族とも違う、その中間に位置する新たな関係性がそこにはあるのを、肌感覚として実感し始めている」。血のつながっていない者同士であっても相互扶助するという笹川さんのお話には、参加者一同、単なる目新しさ以上のものを感じていたようです。

海猫沢さん、笹川さんによるお話の後は、参加者を交えての対話の時間です。講師らによる先の体験事例も踏まえながら、自己紹介時より少し踏み込んだかたちで、具体的な家族の悩み、家族について思うことが共有されました。時には講師、または参加者同士によるサジェスチョンも。

自分自身の根深い部分に巣食う家族に関するモヤモヤは、言える範囲だけでも伝え共有し合うことで、おのずと心強さを覚えるもの。家族に関するモヤモヤを抱えている人は決して珍しくはないのです。生まれ落ちた家庭の事情も問題も、とかく家族外に助けを求めてはいけないような風潮は、私たちを重苦しい気分にさせてしまいます。例えば、家庭外の身近な人とファミレスで気軽に話してみるといった小さなアクションを通じて、家族というトピックがもっと世に開かれた、みんなで向き合える課題にしていけたら。そんなひとつの展望が見えてきた2時間でした。