Tokyo
023

世界から信頼されるランドリーサービス

洗濯物がお客様のつもりで

「ひとつひとつを丁寧に仕上げる。それをいつも心がけているだけです」と語るのは、帝国ホテルのランドリーマネージャーである浅野昭夫さん。世界中から訪れる宿泊客に支持されていることは、映画『JM』(1995)でのキアヌ・リーブスのアドリブのセリフにも表れている。
「洗濯を頼みたい。東京の帝国ホテルでしてくれるような…」
帝国ホテルのランドリーサービスは、現在、32名のスタッフが携わる。なんと全員が帝国ホテルの社員だ。以前は他の部署にいた社員も、配属されるのと同時にランドリーの技術を磨きサービスに従事するのだとか。そして部署が変わっても、変わらないのはお客様への想い。
「当たり前のことを丁寧に。それは帝国ホテルの伝統として、全社員が心に抱いていることです。私たちはお客様に直接お会いすることはありませんので、お預かりする品物をお客様だと思って大事に仕上げております」と浅野さんは言う。

洗濯物がお客様のつもりで
スタッフがひとつの工程を丁寧に作業する。

ひとつひとつ目で確認する

ランドリーに出された衣類は、ひとつひとつ検品しシミやダメージの有無を確認する。シミや油汚れは処理を施し、ボタンが緩んでいるものは付け直す。取れているボタンは、依頼主への確認の後、新しいものをつける。ランドリーサービスが用意しているボタンはさまざまな色と厚み、ジャケットやドレスに使われるような飾りボタンまで数百種類だ。その後、ドラム式洗濯機で洗うのだが、そこでも帝国ホテル独自の技術がある。ワイシャツはエリとカフスのみを手作業で糊付けをするのだ。あえてシャツ全体に糊付けしないのは、着心地の良さを追求した結果。そして機械でプレスして、手仕上げが必要なものは4.5キロの専用アイロンでハンドプレス。もう生産されていないというこのアイロンは、修理しながら長年使い続けているもの。最後にもう一度、全体を検品して汚れがきちんと落ちているか、スタッフの目で確認する。

ひとつひとつ目で確認する
台に広げて襟、袖、身頃を細かくチェック。裏返してもう一度全体を確認する。

船旅の頃から積み重ねた伝統の技術

このランドリーサービスが開始されたのは1911年(明治44年)。当時、海外に渡航するといえば船の旅であり、大きなトランクに荷物を詰めて何週間もかけて移動していた。その間に着た衣類をホテル内で洗濯できたらお客様にとって便利に違いないと、当時の帝国ホテル支配人・林愛作氏は考えた。そして、日本を代表するホテルとして、欧米にも引けを取らない高度なランドリーサービスが生まれたのだ。現在では、1日平均約500点ほどの依頼を受けるという。
「やはり一番多いのはシャツですが、ドレスや民族衣裳、子供服まで様々なものをご依頼いただきます。着物と革製品以外でしたら対応が可能ですので、ご相談ください」と浅野さんは笑顔で語る。このサービスは宿泊客を対象にしたものだが、ランドリーサービスを利用するためだけに宿泊をした人もいたという。世界中の人々から信頼を得ているのも「当たり前のことを当たり前にする」という気持ちを貫いているから。その誠実さがTOKYO GOODだ。

船旅の頃から積み重ねた伝統の技術
ランドリーサービスが始まった頃の様子。
シャツ用の白いボタンだけでも、数十種類を用意。このきめ細やかな心遣いが信頼に繋がる。

【データ】

いつ始まったの? 1911年(明治44年)、ランドリーの前身である洗濯部設置。
どこで見ることができるの? ランドリーサービスは宿泊客のみ利用可能。宿泊する機会があれば、ぜひ体験してみよう。
数字データ 帝国ホテル開業:1890年(明治23年)
ランドリーサービス開始:1911年(明治44年)
フランク・ロイド・ライトによる2代目本館完成:1923年(大正12年)
注意事項 着物と皮革素材は洗濯不可。特殊な素材は随時ご相談を。

取材協力:帝国ホテル