Tokyo
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店番のいない野菜直売所

売る人と買う人が信頼でつながる場所

新鮮な野菜と値札、お金を入れる箱だけが置いてある野菜の個人直売所。お店の番をする人がいなくても、野菜を買ったら当たり前のようにお金を入れる。そんな、売る人と買う人とが信頼でつながっている直売所が、世田谷区には約260ヶ所。喜多見地区で代々農業を営んでいる永井潔さんは、年間を通して50品目を栽培し、その日採れた野菜を直売所で販売している。
「直売所を設置して30年になります。今日はなすときゅうり、じゃがいも、枝豆、ししとう。近所の人が寄ってくれることもありますし、遠くから車で来る方もいますね。私がそこにいれば、料理方法を聞かれたり野菜の話をしたりすることもあります」。直売所は、新鮮な野菜を通してコミュニケーションが生まれる場所でもある。

売る人と買う人が信頼でつながる場所
採れたての野菜たち。新鮮だから、なすもししとうもツヤツヤしている。

世田谷は東京23区内で農地面積第2位

住宅地が広がる世田谷区だが、農地面積は東京23区内で練馬区に次いで第2位。現在の農家数は約330戸ほどだ。江戸時代以降、世田谷区一帯は農村として発達し、米や麦、大豆、野菜などを江戸城下に供給する貴重な場所だった。しかし、交通が発達すると遠隔地から野菜の供給が増え、戦後は宅地化が進み、農地は減少。現在は小規模経営の農家が、住民のニーズに合わせた野菜づくりに取り組んでいる。区内で採れた野菜は、個人直売所やJAのファーマーズマーケット、近隣の小中学校の学校給食に使用されている。

世田谷は東京23区内で農地面積第2位
永井潔さん(左)と、息子の宏幸さん(右)。後ろはもうすぐ出荷するニンジンの畑。

世田谷区に農業が残った理由

世田谷区内に点在する直売所は「せたがやそだち」ののぼりが目印だ。JA東京中央の加藤健さんによると「農家数は年々減少していますが、世田谷区やJA東京中央では景観や環境の保全のためにも“農のある風景”を残そうと、様々な試みを行っています。そのひとつが、地域の方々に都市農業を理解していただき“ファン”を増やすこと。直売所は都市農業のファンになってもらうための重要なコミュニケーションツールでもあります」。永井さんは「畑の面積は限られていますが、いろんな野菜や花を育てていると小学生が見学に来ることもありますし、通学途中の子どもたちもよく畑を見ていきますよ」と語る。
野菜を通じて、人と人の心が行き交う。ずっと伝えていきたいTOKYO GOODな風景だ。

世田谷区に農業が残った理由
野菜を買ったらお金を入れる。お釣りがあるときには、隣接する永井さんのご自宅に声をかける。

データ

いつ始まったの? 世田谷区の農業は江戸時代に発達。
どこで見ることができるの? 世田谷区で配布している農産物直売所マップをチェック。ホームページでも公開している。
数字データ 東京都の総耕地面積:7,130ヘクタール(2015年度)
東京都の農家総数:11,222戸(2015年度/兼業、副業、自給的農家含む)
注意事項 直売所を訪れるときには、お釣りを出さないために小銭を準備しよう。

取材協力:
永井潔さん・宏幸さん
JA東京中央