Tokyo
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北向きに店が並ぶ古書店街

世界最大の「本の街」

千代田区の神田神保町は、約200もの書店が軒を並べる世界最大の本の街だ。そのうち約170軒は古書を扱い、古書店街としても世界屈指の規模を誇っている。それぞれの店舗は、近代文学、古典、美術、演劇、映画などの専門分野があり、街をぐるりと一周すれば、ありとあらゆる本に出会うことができるのだ。不思議なことに書店の多くは、メインストリートである靖国通りの南側に位置し北向きに店を構えている。その理由は、直射日光による本の劣化を防ぐため。「かつては通りの北側にも書店がありましたが、いつの間にか南側に集中するようになりました」と語るのは、明治36年創業の一誠堂書店社長・酒井健彦さんだ。

世界最大の「本の街」
神保町交差点近く、靖国通りの南側にある一誠堂書店。昭和11年から現在の建物で営業している。

大学とともに発展した古書店街

神田神保町と、その周辺の御茶ノ水、神田駿河台などの近隣エリアは、フランスの学生街にならい「日本のカルチェ・ラタン」と呼ばれている。江戸時代、この地域は武家屋敷が立ち並ぶ場所だった。明治に入り、大名や旗本は国許に戻り、広大な空き地が残された。そこに、東京開成学校や東京医学校(統合して現・東京大学)、明治法律学校(現・明治大学)、英吉利法律学校(現・中央大学)、日本法律学校(現・日本大学)、専修学校(現・専修大学)などが相次いで誕生。その学生に本を売るために新刊専門の書店が増え、学生たちが読み終えた教科書を売ったことから古書店が発展したと言われている。現在はキャンパスの郊外移転の影響もあり、学生が本を売りに来ることは少なくなった。「現在の主な仕入れ先は、専門の市場と個人宅への訪問買い取りです。本を買いに来るお客様は、研究者やコレクターの方々など様々。うちは東西交流史などの書物や古い洋書も扱っているので、海外からのお客様もいますし、海外の大学図書館からの問い合わせもあります。前任のイタリア駐日大使もよくいらっしゃいました」と酒井さん。

大学とともに発展した古書店街
和綴じの本は、帯をかけて内容をわかりやすく表示する。昔から変わらないスタイル。

本を通して、未来へ文化を伝える

一誠堂書店は、国史・国文・美術・工芸・民俗・考古・郷土誌などを専門に扱っている。中には和綴じの古文書や貴重な絵巻物もある。「和紙の原料は木材です。枯れ木を好む虫がつきやすいので、燻蒸して除去することもあります」。常に空調を管理し本に最適な湿度を保つ。特に貴重な書物は桐の箱に入れて保管する。できる限り劣化を防ぎ、本を保管することも古書店の重要な役割だ。「一般に流通していない、図書館にもない。そんな本を求めていらっしゃるお客様も少なくありません。仕入れ時に見つかればすぐに連絡しますし、近隣のお店を紹介することもあります」。1冊の本は売り物以上の意味をもつ。貴重な知識は、本を通して人から人へ。神田神保町の古書店街は、未来に文化や知識を伝える役割をもつTOKYO GOODな街だった。

本を通して、未来へ文化を伝える
革装丁の古い洋書は挿絵をまとめた本。和書は寛政12年(1800年)の『長崎見聞録』。
いつ始まったの? 明治10年代に大学の創立とともに発展した。
どこで見ることができるの? 神田神保町周辺。
数字データ 100万冊:2017年10月27日(金)〜11月5日(日)に開催される「第58回 東京名物神田古本まつり」には100万冊あまりの本が出品される。
注意事項 古書店街には貴重な本も多数。立ち読みをするときは、ていねいに扱うのがマナーのひとつ。

取材協力:
一誠堂書店